みなさん、こんにちは。Ensemble Levent代表の兼清です。
先日、知り合いの方のご縁でふとアウトリーチを見学させていただく機会をいただきました。
少しずつ当団体としてもアウトリーチや芸術鑑賞会といった機会もいただくことが増えてきましたが、今回のように客観的にアウトリーチを見学、勉強させていただく機会は本当に貴重で刺激になります。
今回は、そんなアウトリーチの見学を通して気が付いたことや、学んだことを備忘録的に「一考察」としてまとめておきたいと思います。
授業(話)の進行
まずは、アウトリーチがで必ず必要となる「授業(話)の進行」についてです。その中でもまずは基本となる「話し方」ですが、一人の場合でも複数人の場合でも、大前提として、
・ゆっくり丁寧に話す。
・子供の目を見て話す。
といったことが挙げられます。
そして、さらにアウトリーチを複数人で行なっている場合は、どうしても一人の人が進行しがちですが、子どもたちはそこにいる人(奏者)全てに興味を持っています。その点を考えると、できるだけ一人一人全員の“キャラクター”が見えた方が面白い。仮に話すのが苦手だとしても、そういう人に興味を持つ子どもも必ずいるので、
・授業をいくつかのセクションに分けて進行する人を変える。
・お笑い芸人のように常に「対話」しながら進めていく。
といった方法を取り入れると良いと感じます。
また、子どもが立った状態で話を聞く場面がある場合、後ろにいる生徒は前で話している人が見えづらくなってしまいます。それを防ぐためにも、
・授業者は少し高いところから話ができるように「ひな壇」や「指揮台」を用意する。
といったことも効果的かもしれません。
子どもとのコミュニケーション
続いては、「子どもとのコミュニケーション」についてです。
アウトリーチの場合、授業者は「音楽家」であり、「教師」ではありません。すると、教師に比べ普段、子どもとのコミュニケーションをとる機会が少ない人も多いと思います。そこで注意したいことは、
・子どもの目を見て話す、演奏する。
・子どもに何かをさせたあとは、必ず「コメント(反応)」をする。
・前の生徒ばかりにならないようにする(常に後ろの生徒を意識する)。
といった点だと思います。いわゆる「上手な授業をする先生」にも共通するコミュニケーションですね。
演奏について
アウトリーチにおいても、最も大切と言える「演奏」についてです。
普段のコンサートと違って、アウトリーチの場合は「興味のない人(子ども)もいる」という前提で進めるべきだと思います。そういった中で、いかに興味を持ってもらうか。そのために演奏時の「工夫」も普段以上に必要になってきます。どんな演奏形態や、曲でも共通する事柄としては、先ほどから何回か出てきている
・子どもの目を見る。
ということ以外にも、
・譜面台を使わない(使うとしても低くする)。
というような視覚的に見やすくする工夫も必要です。
演奏するタイミング
また、演奏は何と言っても授業の中でも最も“子どもが興味を持ちやすい部分”なので、演奏を入れる「タイミング」も、授業を構成する上でとても重要になってきます。
例えば、「最初に演奏するかどうか」で考えてみると、
パターンA:最初にいきなり演奏する
→子どもの気持ちをグッとつかむ事ができるが、そこから気持ちを維持させ続けるのに工夫が必要。
パターンB:最初演奏せず、中盤で演奏する
→ある程度楽器(声含む)の説明などをしてから演奏することで、子どもの「ワクワク感」を煽ることができる。一方、授業の最初の雰囲気を作るのに少し時間がかかってしまう。
というようにそれぞれに良い点や悪い点があります。
演奏する形態
他にも演奏の「形態」もアウトリーチならではの工夫できることの一つです。
コンサートであれば、演奏者=ステージ、聴衆=客席、というようにそれぞれ場所が決められていますが、アウトリーチの場合必ずしもそうである必要はありません。
もちろんピアノや大型の打楽器のような移動が難しい楽器もありますが、声楽や小型の楽器などの場合は、
・生徒を囲むようにして演奏する。
・生徒の中に入って演奏する。
など、教室をどう使うかといった工夫もすることができます。
教室全体を一つのステージのように使うことで、子どもたちも巻き込んだコンサートとは違った音楽体験も可能になるのではないでしょうか。
指導について
アウトリーチでは、楽器(鍵盤ハーモニカ、リコーダー他)や声楽(歌)といったそれぞれ音楽的な「指導」を行うことも出てくるかもしれません。
そういった指導の際にも、気をつけたいことがいくつかあります。
例えば、
・立ったり座ったりする回数を減らす。
・子どもがわからない単語は使わない(使う場合は補足説明を入れる)。
というようなことです。
そして、これは実際に授業をしていると感じることですが、教科書など何かを手元に見ている時、子どもたちは文字通り「視野が狭く」なっています。
アウトリーチは、子どもたちが音楽家と触れ合える貴重な場です。
なので、その限られた時間でも出来るだけ多くのことを五感で感じ取って欲しい。だからこそ、なるべく教科書や楽譜といった手元に見るものは無くして授業を進める工夫をした方が自然と内容に集中しやすくなると思います。
それでも、どうしても歌や楽器の指導で歌詞や楽譜が必要な時は、
・黒板に歌詞カードや楽譜を用意する。
といった一手間を加えるだけでも、かなりの効果があると思います。
また、小学校低学年のうちは特にそうですが、一つのことを繰り返して続けるとどうしても「飽き」がきてしまい、子どもの集中力が目に見えて低下していってしまいます。
そうならないためにも、
・「学ぶ」部分と「参加する」部分を細かく切り替える。
というような工夫をして、常に子どもがフレッシュな気持ちで取り組めるような工夫があるといいと思います。
アウトリーチの意義
最後に、改めてアウトリーチの「意義」について考えてみたいと思います。
どんなに細かな工夫をいっぱいしたとしても、この部分が曖昧になってしまうと、結局子どもの「記憶」には残らず、
「なんとなくいつもの授業と違って楽しかったけど、結局何を学んだんだろう」」
といった感想に終止してしまうことになります。
そうなってしまわないためにも、アウトリーチを通して子どもに何を残したいかということを授業者は必ず明確にして臨まないといけません。
やはり、普段授業をしてくれる音楽先生とは違ってプロの音楽家が来て子どもたちに授業する訳ですから、普段、先生が一人でもできることはなるべくせずに(それは、先生にお任せして)、音楽家がアウトリーチでしかできないことを突き詰めて考える必要があると思います。
それは、素晴らしい演奏はもちろん「音楽(家)の素晴らしさ」や「音楽の奥深さ」、「圧倒的な音楽の力」や「音楽家の生き様」といったことではないでしょうか。
もちろん、内容的には普段の先生でもできる「技術的な指導」(リコーダーや発生指導…)であったとしても、それをプロ目線でどうすれば面白く子どもに伝えることができるか。
プロの音楽家としての生の「言葉」としてその技術を伝える必要があると思います。
そして、多くの場合その一時間勝負であるアウトリーチでは、
・短期間でなるべく印象に残るようにする。
ということも重要になってきます。
一つ具体的な内容で考えてみると、
ある曲を全体を通してを指導していった際に、それぞれ部分ごとに技術的な「ポイント」を指導していったとします。
しかし、子どもはそのたくさんのポイントを覚えておくことは意外と難しく直前の内容しか覚えていなかったりします。
なので、まとめて多くのことを指導する場合には、
・板書にポイントを書き込んでいく。→後日そのポイントを通常授業でプリントで復習する。
・最後に通して練習する時に、ポイントを書いたカードを用意してその都度見せていく。
といった視覚的にも理解しやすいような工夫が必要になるかもしれません
そういった「ちょっとした一手間」の積み重ねが結局子どもたちの記憶のどこかに引っかかり、将来的にも残るものになっていくのだと思います。
実際、私たちの記憶に残っているものの多くもそんな「何気ない一コマ」なことがほとんどだったりします。
まとめ
今回は、アウトリーチを実施する際、実際に役に立ちそうなことを備忘録としてレポートに書いてみました。
最初にも書きましたが、自分たちだけでやっていると、なかなか客観的な意見をもらえることも少なく気づきを得られることが難しくなってしまいます。
そうなってしまわないためにも、常に新しい外からの意見を取り入れながら、常により良いものを作っていこうとする意識が必要だと感じています。
大学時代、とある教職の授業でとても印象に残っている言葉があります。それは、
教える者は100を知った上で1を伝える
というものです。
これはなんの分野でも言えることだと思いますが、アウトリーチの際も
100の準備をした上で、1を提供する。
そのくらいの意識を持ってやり続けることで、なんとか子どもの「記憶」に残るアウトリーチにできるのではないかと思います。
近年、学校でも「アウトリーチ」という言葉をよく耳にするようになりましたが、この記事がこれからアウトリーチを実施しようとするみなさんの少しでも参考になれば幸いです。
アンサンブル・ルヴァンのアウトリーチ
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(過去記事)→ 打楽器アウトリーチを行いました。