近年、少子化の影響による部員の減少などによるアンサンブル編成の難しさを受けて各パートを複数の楽器から選択して演奏できる「フレキシブル楽譜」が多く出版され、演奏されるようになりました。
今回はそんなフレキシブルアンサンブルに取り組む際の難しさとその解決方法についてのレポートです。
フレキシブル編成の“小編成吹奏楽的”側面
Ensemble Leventでも8人程度の中編成を組んで演奏することがあるのですが、その編成で扱う曲の多くはオリジナルが吹奏楽の曲です。
これまでに演奏した曲には
『アルセナール』(ヤン・ヴァン・デル・ロースト)
『鷲の舞うところ』(S.ライニキー)
『吹奏楽のための第一組曲』(G.ホルスト)
などがあり、曲にもよりますが工夫をすれば本来30人以上の吹奏楽で演奏する曲も8人で演奏することができます。
(関連ページ)→楽譜
このことからも、8人でかつ「木管+金管+打楽器」の編成だとそれはいわゆるアンサンブルというよりは一種の『小編成吹奏楽』と言えると思っています。
フレキシブル編成の抱える課題
フレキシブルで行うアンサンブルは各パートを複数の楽器から選んで演奏できるのが特徴ですが、それゆえに
「その楽器のためだけに書かれた楽譜ではない」
ことによる問題を大きく2つ抱えています。
1.「バランス」の難しさ
中でもフレキシブル楽譜を演奏する際に1番難しいのが
「楽器間の音量バランス」
だと思います。
細かい各楽器同士のバランスももちろん考える必要がありますが、ここでいう楽器間とは、ざっくりと
木管–金管–打楽器
のバランスだと思ってください。
吹奏楽に使われる楽器は、音量が出やすい順に
打楽器→金管→木管(→弦)
となります。
実は、吹奏楽の合奏の場合はステージの客席側に木管、ステージに奥というように自然とバランスが取りやすいように配置されているのですが、この3つの楽器が横並びで混在することも多いフレキシブル編成では
木管が聞こえづらい
という事態がしばしば起こります。
そうなると、音が大きくなりがちな金管楽器と打楽器にはかなり繊細な音量コントロールが求められることになり、
この2種類の楽器を演奏したことがある人ならわかると思いますが、金管楽器や打楽器奏者にとって、
mpからmfの音量で十分な表現をする
ことは非常に高い水準の技術を必要とするため、その難しさがフレキシブルアンサンブルの難しさに直結してしまいます。
【解決策】バランスを整えるために
バランスを整えるためには、いくつかの解決策がありますので参考にしてみてください。
(解決策1)同属楽器で固める
これは多くのフレキシブル楽譜がそうすることを勧めているのですが、編成を組む際に、フレキシブルとは言えど、
木管楽器なら「木管楽器同士」で、
金管楽器なら「金管楽器同士」で、
と、なるべく同属楽器同士でアンサンブルを組んでおくことで、「音量バランス」問題はかなり解決しやすくなります。
詳しくは作曲家の広瀬勇人氏が下記のサイトでまとめてくださっていましたので参考にしてください。
→アンサンブルの作り方:広瀬勇人 第5回「フレキシブル・アンサンブルのバランス整理」
(解決策2)木管、金管のどちらとも相性のいい楽器を加える
もしどうしても木管、金管が混ざってしまう場合は
・サクソフォーン
・ユーフォニアム
・ホルン
のどれかの楽器を加えておくのがお勧めです。
サクソフォーンとユーフォニアムはその歴史が新しいこともあり、どちらも「金管楽器的な音量」と「木管楽器的な機動力」を併せて持っています。
ホルンは『木管5重奏』に加わっており、金管楽器でありながら古くから木管楽器との親和性が高いとされる楽器です。
そのため、この3つの楽器のどれかを加えておくことで木管と金管をうまく「橋渡し」してくれます。
(解決策3)最も音量が出づらい楽器を中心にバランスを整える
ここまでは編成の段階で解決できるように調整することですが、実際には上記どちらも難しい場合があると思います。
そういう場合には
最も音量が出づらい楽器を中心にバランスを整える
と良いかと思います。
同じ「f(フォルテ)」でもトランペットとクラリネットではその音量に差が生まれます。
木管、金管、打楽器がいる場合は最も音量が出づらい木管に合わせて音量バランスを整えることで聞いていて違和感のないアンサンブルに近づけることができます。
2.「配置」の難しさ
フレキシブルアンサンブルにおいて、意外と忘れられがちなのが「配置」や「ベルの向き」といったセッティングの問題です。
一つ目の音量のバランス問題とも関わってくるため、配置をクリアすることによって様々な問題が解決できることも少なくありません。
実際にEnsemble Leventが過去に行わせていただいたアンサンブル講習会やレッスンでもかなりの確率で「配置」の調整を行わせていただくことが多かったです。
(関連記事)→吹奏楽アンサンブルワークショップ
例えば、金管5重奏であれば客席から見て左(下手)側から順に
トランペット1st
トランペット2nd
ホルン
トロンボーン
チューバ
という配置、または
トランペット1st
ホルン
チューバ
トロンボーン
トランペット2nd
という配置、の大きく2つの「一般的な配置」があります。
しかし、その編成が毎回異なるフレキシブル編成においてはその「一般的」とされる配置がないため、配置も決めることが難しく、
なんとなく最初がその並びだったから
というような理由で、配置が決まっていることも少なくないと思います。
【解決策】配置を考える
フレキシブルに限らず、アンサンブルで配置を考える場合の代表的な考え方を2つご紹介しておきますので参考にしてみてください。
(解決策1)「音域順配置」を試してみる
舞台の下手から上手に向かって音域が高→低となっていく配置です。
オーケストラや吹奏楽の一般的な配置はこの音域順配置になっています。
オーケストラの場合
下手)ヴァイオリン→コントラバス(上手
吹奏楽の場合
下手)フルート→チューバ(上手
を思い浮かべてもらうとわかりやすいかと思います。
隣に自分と音域の近いパートがいるためアンサンブルがしやすくなるというメリットがある一方で、
チューバなど音量の大きな低音金管楽器が舞台の手前に来てしまうことも多く、音量のバランスを整えることが難しくなるというデメリットがあります。
(解決策2)「対向配置」を試してみる
舞台の手前(客席側)から奥に向けて高→低となる配置です。
例えば、1~5までのパートがある場合は
下手)13542(上手
という並びになります。
両側から旋律が聴こえてくることで、演奏が立体的になりやすい一方で、近い音域の楽器と離れてしまうためアンサンブルが難しくなるというデメリットがあります。
(解決策3)ベルの向きを考える
金管楽器、木管楽器のバランスを考える上でも重要なのですが、ベルが前に向いているトランペット、トロンボーンが編成に入っている場合は特に「ベルの向き」についても考えておくことをお勧めします。
・客席に向けるようにして吹くのか
・客席に向かないようにして吹くのか
・譜面台に当てるのか
・譜面台から外すのか
といった観点でベルの向きを調整してみると良いかと思います。
この際は他の部員や先生などになるべく距離をとったところから聞いてもらって、「音の混じり具合」や「音量のバランス」を聴いてもらってください。
「オリジナル編成」の魅力
私たちEnsemble Leventは元々木管5重奏と金管5重奏をもとに立ち上がった団体ということ、
またそれぞれが大学在学中から現在まで各種アンサンブルを行っていることもあって、
・金管5重奏
・木管5重奏
・サックスカルテット
・トロンボーンカルテット…
といった「オリジナル編成の魅力」を知っているので、どうしても中高生がアンサンブルに取り組む際にはなるべくオリジナルの編成、もしくはそれに近い編成に挑戦してほしいという思いがあります。
もちろん、実際には様々な問題があるためオリジナル編成を組むことが難しいということもあると思いますが、最後に「オリジナル編成」の魅力についても少し触れておきたいと思います。
(関連記事) → 吹奏楽部でアンサンブルに取り組む場合の4つの課題と魅力
普遍的な魅力とその楽器の強み
オリジナル編成によるアンサンブルは、どれも長い時代を経て残ってきたという点で洗練されている素晴らしい編成です。
サウンドのブレンド感が魅力の金管5重奏、
それぞれのキャラクターが印象的な木管5重奏、
音量、技術ともに優れ表現の幅が広いサックスカルテット
極上のハーモニーを生み出すことができるトロンボーンカルテット
とそれぞれにそれぞれの魅力=強みがあります。
何かしらのアンサンブルをする際には、(それがもしオリジナル編成に挑戦できない時でも)
ぜひ自分の楽器が含まれるオリジナル編成の演奏を聴いてみてください。そうすることで、
自分の楽器はアンサンブルでどういう「強み」を発揮する楽器なのか。
がわかると思います。
そして、その楽器の強みを知っておくことはどんなアンサンブルをする上でも無駄ではないと思います。
(関連記事) → 吹奏楽における「アンサンブル」の一般的な編成11種類
まとめ
今回は、フレキシブル編成のアンサンブルを行う場合の2つの問題とオリジナル編成の魅力をご紹介しました。改めてまとめておくと、
フレキシブル編成は
・音量バランスを整えづらい
・配置が確立されてない
という二つの問題を持っており、
オリジナル編成の演奏を聴くことでその楽器の「アンサンブルにおける強み」を知ることができる
ということになります。
オリジナル編成であれ、フレキシブル編成であれ「アンサンブル」にはたくさんの魅力が詰まっていますので、ぜひそれぞれの編成を楽しんで取り組んでみてください。
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