コンクール翌日

本番の録音を家で一人聴きながら条件的には決して恵まれていたとは言えない中

なぜ「金賞」をとることが出来たのか

について考えていました

その中で見えてきたこと、覚えておきたいことをここに振り返りとして書き残しておきたいと思います

吹奏楽コンクール振り返り1〜初の金賞受賞

昨日で今年指揮させていただいた東洋大学京北高校の吹奏楽部の吹奏楽コンクールが終わりました

結果は東京都吹奏楽コンクールC部門「金賞」

「銅賞」しか取ったことのないバンドが創部初めて手にした「金賞」は快挙です

個人的にも指揮での出場としては初の「金賞」だったので部員のみんなには文字通り「新しい景色」を見せてもらいました

まずはここまで頑張ってくれた部員や顧問の先生方全てに「ありがとう」と言いたいと思います

吹奏楽コンクール振り返り2〜学校の歴史

東洋大学京北中学高等学校は5年前に共学校としてリスタートした歴史の浅い学校です

その京北の吹奏楽部にEnsemble Leventが関わるようになったのが4年前

今までは外部コーチとして年に数回レッスンするだけでしたが

今年は顧問の先生とも相談の上指揮も含めてメインコーチとしてがっつり関わることに

そういう意味で今までとは違う新しい気持ちで迎えた1年目でした

吹奏楽コンクール振り返り3〜スタート

4月にスタートした時の部員はたったの13人(うち半分は中学生)

それが幸いなことに今年は中高合わせて19名というたくさんの新入生に恵まれ

当初は出場すら危うかった吹奏楽コンクールに「出る」ことになりました

出場を決めたのは締め切りギリギリの5月30日

6月はバンドフェスティバルやカナダの学校との合同公演テスト週間もあり

曲を練習し始めてからはわずか一ヶ月で迎えた今年の吹奏楽コンクールでした

創部わずか5

今まで金賞なんて取ったことない中で本当に部員みんなよく頑張ったなと思います

吹奏楽コンクール振り返り4〜同じステージに立つ

例年だと夏のコンクールがバンドにとってのはじめての本番でしたが

・バンドフェスティバル(6月)

・カナダの学校との合同イベント(6月)

・学校説明会(8月)

と今年はコンクール前に多くの本番を部として経験することができました

そして本番一つ終わるごとに部員が「ひとつのチーム」になっていくのを感じました

やっぱり吹奏楽部、音楽をする人は同じ本番を経験して同じ拍手をもらうことでまとまっていくのだと思います

吹奏楽コンクール振り返り5〜過酷な状況

東京都のコンクールにはA部門(55名以下)、B部門(35名以下)、B部門(30名以下)、C部門(20名以下)と4つの部門があります

その中から今年は高校2年生と経験者の高校1年生を中心に20名を選びC部門に出ることにしました

それでもパートによっては中学2年生と3年生、初心者の高1もいる

というような厳しい状況でした

吹奏楽コンクール振り返り6〜選曲

コンクール曲はロバート.W.スミス「インカンテーションズー“呪文”ー」

エキゾチックな雰囲気を持ち技術的な難易度に比べて演奏効果の高い作品です

技術的に難易度が高い曲を仕上げるには時間がなさすぎたので

ある程度余裕を持って取り組める難易度の曲を丁寧に仕上げていく方針でこの曲を選びました

結果的には技術面の練習に追われることなく一音一音にこだわることができたという点でこの選曲は正解だったと思います

吹奏楽コンクール振り返り7〜これまでの反省と自主性

これまでも自分が指揮して出場したことはありましたがその時はいつも熱が入りすぎて一人で何でもやろうと躍起になり

結果空回ることも少なくありませんでした

そんな自分の反省も生かして今年は「とにかく部員を信じる」と決めてコンクールに臨みました

この『呪文』はつくり自体がとてもシンプルで基本的に木管楽器、金管楽器、打楽器ごとに3声部に分かれています

そのためセクションでの練習も組みやすく部員も自分たちで考えて練習プランを組んでくれました

専門的な知識のある指揮者がつききっりで指導するのは一見すると効率もよく上達も早そうに思えますが

今年は全てを生徒に委ねながら

遠回りに思えても結果的にそれが一番の近道

自分で考えることができる人、バンドになって欲しい

そう常に思いながらコンクールメンバーに向き合いました

吹奏楽コンクール振り返り8〜感じた可能性

そうして成長していく部員と顔を合わせる中で今年はこれまでになくバンドの「可能性」を感じるようになりました

できてまだ間もない新しいバンドです

雑な部分もありましたがそれ以上に

「このバンドはきっともっとできる」

と思うことが多くありました

練習後にその日の録音を聴きながらも

「もっとできるはず」とか「どうして力を引き出してあげられないんだろう」

と“悔しさ”を感じることが増えました。

それはきっと部活に真面目に取り組む部員や部としてまとまっているいい雰囲気を知っていたからだと思います

今年のバンドはそんな「可能性」を本番当日まで感じることができたバンドでした

吹奏楽コンクール振り返り9〜慣れない長時間練習

京北高校では普段の部活が週4日までと決まっています

コンクールなどの大会前のみ特例的にそれを超えた活動が認められますが

普段から長時間練習する習慣のない部員にとっては夏休みの長時間練習はなかなか大変です

疲れがたまると自然と不平不満も口にしやすくなってしまうものですがそうなってしまうとせっかくの練習しても逆効果です

そこで毎日の練習をなるべく有意義にするためにコンクールに向けて毎日部員全員が自分の個人目標を音楽室のホワイトボードに書くようにしました

結果的に全員が毎日目標を見えるようにしたことでその日の練習のモチベーションが明確になっただけでなく

部員同士のコミュニケーションツールとしても効果があり長い練習をみんなで乗り切ることができるようになっていきました

吹奏楽コンクール振り返り10〜充実した講師陣

京北の今年の吹奏楽コンクールを振り返る上で欠かせないのが講師の存在です

金管楽器には重井吉彦、木管楽器の西澤いずみ、打楽器の永野雅晴・永野仁美という非常に恵まれた講師陣は生徒だけでなく自分にとっても本当に大きな助けになりました

それぞれのセクションを丁寧に見てもらえるだけでなくバンド全体の状態を常に客観的に分析して指摘してもらえたことは「審査」の場を意識すると非常にありがたかったです

またそれぞれの先生ごとに微妙に異なる個性も一曲を多角的に解釈して捉える上で非常に刺激になりました

吹奏楽コンクール振り返り11〜打楽器パートの頑張り

今回の金賞に大きく貢献してくれたものの一つに打楽器パートの頑張りがありました

多くの先生にとって一番後回しになりがちな打楽器パートですがコンクールの会場であるホールではかなりその差が出てしまいます

講師の永野先生に見てもらいながら本来であれば6人でやるパートを工夫して3人で見事に演奏してくれました

そして技術的なことだけではなく「どういう音色が合っているのか」という音楽的な面も3人でよく議論して突き詰め

本番の演奏にも奥行きを出してくれました

審査員の講評でも平均が7~7.5点の中、打楽器の先生だけ9点をつけていただき、講評でもお褒めの言葉をいただきました

この2点は賞を決める上でも本当に大きくそういう意味でも今年は打楽器パートのおかげで金賞だったと言っても過言ではないと思います

吹奏楽コンクール振り返り12〜過去の講評

コンクールを迎えるにあたり過去の講評を参考にするのも良かったと思います

講評はそのバンドの持つ根本的な問題を指摘しているので「過去言われたこと」を解決しておくことはとても大切だと思います

過去の講評を見ると京北吹奏楽部が抱えている課題は

・音程

・バランス

でした

逆に「表現」や「サウンド」は褒めてもらえていたのでこれはバンドの“強み”として積極的に出していくことにしました

そういった分析を明確にし部員とも共有しながら課題の解決に取り組んでいきました

吹奏楽コンクール振り返り13〜広い場所でバランスを整える

バランスを取る上では広い会場での練習がやはり効果的で必要です

京北高校は音楽室があまり広くなく天井も低いため音楽室の合奏だけだとどうしてもバランスがわかりづらくなってしまいます

幸いなことに学校の地下にアリーナ(体育館)があるためそこで本番前に数回合奏ができたのは貴重でした

金管楽器と木管楽器のバランス、管楽器と打楽器のバランス、さらにはまとまって聞こえるようになる配置…

など音楽室だけではわからなかった問題が浮き彫りにでき調整することができました

また、ホール練習の時は指揮する自分だけでなく出場するメンバー20名全員にも一度は外から聞いてもらうようにしました

そうすることで自分たちの演奏を客観的に聞くことができるようになり

合奏に戻ってきても音が普段より飛ぶようになったり表現が大きくなったりと目に見えて良い効果がありました

吹奏楽コンクール振り返り14〜直前リハーサル

コンクール直前は2日前から本番の時間である10:30に通しができるようにその前のチューニンングから含めてリハーサルを行いました

今年の曲は時間的にも長くない上に金管楽器的にもそれほどきつい曲ではなかったので

リハーサルでもチューニング、基礎合奏に加えて軽い通しをするようにしていました

リハーサル室での通しは本番のスタミナも考えしないことが多いと思いますが

今年は直前のリハーサル室で通しをしたことでステージでも程よく力の抜けた状態で演奏できていたような気がします

吹奏楽コンクール振り返り15〜コンクール当日に生まれた「目標」

コンクール当日

今年は朝10:30本番と早めのステージだったため朝6:30から学校で音出しをしたのですがホワイトボードの個人目標が全員

金賞とるぞ!!!

になっていました

今まで一度も部員が口にしていなかった「金賞」という言葉を当日全員が共通の目標として口にしたこと

これは、とてもすごいことだったのではないかと今になって思います

それまでおそらく現実味のなかった「金賞」という言葉をおぼろげながらでも部員が意識できるようになり

もしかしたら私たちいけるかもしれない

という実感が部員に生まれていたのだと思います

そして結果として有言実行となったこの目標

もし、この目標が当日言えていなかったら金賞は取れなかっただろうと思います

吹奏楽コンクール振り返り16〜緊張感

吹奏楽コンクールでは時間になると集合して係の生徒に誘導してもらいます

ちなみに集合の時、横にはB部門に出場する全国常連校、東海大高輪のバンドがスタンバイしていました

今年はこの誘導の間もいつもとは違う雰囲気がありました

「緊張感」があったのです

緊張と言うと悪いことに思われがちですが、一概にそうとも言えません

努力をしていなければ緊張もしませんし適度な緊張はむしろ良いパフォーマンスには不可欠です

移動の間も、チューニングの間も、ステージ袖に待機している間も

程よい「緊張感」がありました

この「緊張感」こそそれだけメンバーがこのコンクールに何かを懸けていた証だと思います

吹奏楽コンクール振り返り17〜ステージ後の部員の涙

本番が終わって楽器を片付けている時のこと

ここでも今までとは違う雰囲気がありました

「いつもより良い感じだと思いました!」

「ホールが意外と狭かった!」

と各々が口にしている中

一人だけ泣きながら謝っている部員がいたのです

その部員は

「リードミスをしてしまったごめん…」

と言って泣いていました

過去のコンクールでもリードミスはじめミスはありました

しかし、それを悔やんで涙する生徒がいたのは今年た初めてのことでした

きっとみんなで良いものをつくれているという実感があったからこその涙だったんだろうと思います

もちろん一回きりの本番ですし後悔のない演奏ができることが一番良いのですが

後悔して涙できる

頑張ったけど報われなくて悔しい

というのはそれと同じくらい尊いことだと思います

その涙を見て改めてこのバンドは良いバンドになったんだと再確認しました

吹奏楽コンクール振り返り18〜熱意のバランスと部員の力

これまで自分が指揮してきたコンクールも決して手を抜いていたわけではありませんでした

しかし今年は例年に比べ圧倒的に違うと感じるものがありました

それが部員の力です

今年はコンクール前に多くのステージを共有できたこともあり

部長や上級生を筆頭に部員全体が一つのチームとしてとてもよくまとまっていました

考えてみれば当たり前のことですが仮に指揮者がどんなに頑張っても音を出す部員全員の気持ちが一つになっていなければ「金賞」は絶対に取れません

指揮者と部員の力の熱意のバランスは良い状態順に

A.指揮者=部員

B.指揮者<部員

C.指揮者>部員

だと思っています

指揮者と部員の熱意が高いところで統一されているのがA、指揮者はあまりやる気がないが部員は頑張ろうとしているのがB、指揮者がから回って生徒が付いてきていない状態がCの状態です

Cの状態では決して「金賞」にはなりません

Bの状態は楽ではありませんが「金賞」に届く可能性はあります

そして毎年「金賞」を安定して手にする学校はAの状態を保っています

指揮者一人の想いなんてきっと知れています

何十人もいる部員一人一人の想いがきちんと重なった時こそ

1+1が「2」ではなくなり

出す音にも説得力が増すのだと今年のコンクールメンバーが教えてくれました

吹奏楽コンクール振り返り19〜結果発表の瞬間

自分は本番が終わると先に会場を後にすることも多いのですが

今年はなんだか妙に後ろ髪をひかれる思いがありました

これまでなかなか聞くことがなかったC部門の各演奏を聴いてみたいというのもあったのですが

このチームと一緒に結果発表を共にしたいとふと思いました

結局最寄り駅まで行ったあとにホールに引き返しました

この妙な予感は結果的中していました

ホールに残って良かった

結果発表の瞬間

「プログラム44番東洋大学京北高等学校ゴールド金賞!」

その言葉がホールに響いた瞬間

隣で結果を聞いていた部員たちは喜びとも驚きとも言えるような声をあげていました

高校生、中学生関係なく多くの生徒が涙していました

きっとそれぞれに苦しんで頑張っていたんだと思います

部長の「頑張って良かった」と言う言葉にも本当に胸を打ちました

これまで4年間「銅賞」しか取ったことのなかった京北吹奏楽部が初めて手にした「金賞」は

本当にたくさんの努力を報ってくれたのだとそれを見て実感しました

吹奏楽コンクール振り返り20〜「金賞」の力

ホールを後にして帰りの電車に乗ってからも本当に嬉しそうな部員たち

私は「金賞」が子どもたちをこんなにも幸せにしてくれるんだと初めて知りました

京北吹奏楽部の歴史に間違いなく名前を刻んだこの代と2019年の吹奏楽コンクールは

自分にとっても忘れられない思い出になると思います

自分一人だけでは決して見ることのできない景色を京北吹奏楽部が見せてくれました

心から「ありがとう」と伝えたいと思います

吹奏楽コンクール振り返り21〜生まれた「欲」

人間って本当に不思議だなと思いますが

結果発表の時、「金賞」を喜ぶ自分と同時に新しい「欲」がすでに生まれていました

このバンドと一緒にもっと上の景色を見てみたい

「金賞」という山の頂には今まで見たことない次の山が見えていました

京北吹奏楽部はこれまで「銅賞バンド」でしたが今年のコンクールで「金賞バンド」になりました

しかし「金賞」を毎年取り続けることができるような本当の意味での「金賞バンド」になるには

まだまだ音楽的にも人間的にも未熟です

このバンドの力はまだまだこんなもんじゃありません

コンクールのステージ上でも指揮をしながらたくさんのことを感じていました

悔しい、まだできる

もっと大きくなってまたこのステージに戻ってきたい

このメンバーとまた演奏したい…

コンクールのステージ上でも成長を感じさせてくれるような本当に可能性に溢れた演奏でした

吹奏楽コンクール振り返り22〜次のステップへ

毎年「銅賞」だった京北吹奏楽部が今年「金賞」を手にしたことは一見すると「奇跡」のようです

しかし改めて振り返ってみるとそこにはちゃんとした理由があったんだなと感じます

今年は本当にたくさんの歯車が上手く噛み合った結果「創部初の金賞」に繋がりました

そう言う意味では起こるべくして起こった「奇跡」です

見る人から見ればたかが「C部門の金賞」かもしれません

しかしこの「金賞」は京北吹奏楽部にとっての新しい歴史の1ページとなって

このバンドをさらに強く大きく成長させてくれると信じています

Ensemble Levent
兼清 颯